ふと、バックミラーに目をやると、青白いHIDヘッドライトの光が迫っていた。
そいつは160km/hで走っている俺の横をいとも簡単に抜いていく。
「やってくれるじゃないか…」
巡航していたとはいえ飛ばしているときに抜かれたのには違いない。
俺はアクセルをワイドに開け、そいつを追撃することにした。
場所は天保山インター付近。これから先、尼崎までほとんどが
高速コーナーと直線で構成された超高速ステージだ。
「ひょっとしたらこいつはマジモノかもしれない」
ふと俺の胸をそんな勘がよぎった。
もうすでにメーターの針は右半分に飛び込み、220km/h付近をうろうろしている。
なのに差は一向に縮まらない。
バイクの中間加速についていける車なんてそうザラにいるもんじゃない。
俺のバイクGSX-R1100は年式は古くても145馬力。
そのへんのライトチューンの車だったら加速で追いつけないなんてことは有り得ない。
気になった俺は、GSX-Rのエンジンにひときわ強いムチを入れ、
一般車のいる中島のロングストレートを200〜250km/h付近でスラロームしている
そいつに並びかけた。ヤツはすぐ横だ。


「マジか・・・・」


…こんな車が速いわけがない。
俺はそう直感した。
車種は最新モデルのフェアレディZ
Z33とよばれ、NAで280馬力のライトなスポーツカーだ。
意外と中高年者に人気である。
ラグジュアリーなフラッグシップスポーツ。
フェアレディZ33。
それが・・・!


今目の前にいるZはゴールドの純正色こそ身にまとっているものの
明らかにターボの音を響かせでいた。
完成度の高さをうかがわせるキビキビとした足で
220km/hで尼崎のゆるいコーナーに飛び込み、加速していく。
その加速たるや、リッターバイクを置いてかんとするばかり。
追随するのは至難の業だ。
「高速コーナーではむしろスタビリティの高い4輪のほうが分がある。
 しかけるなら尼崎のロングストレートでのすり抜け勝負か…。」
根本的にバイクの方が小さく、すり抜けは当たり前だがし易い。
俺はこのモンスターに対しての勝機はそこしかないと思っていた。
途中何回か並びかけるもすぐに離される状態が続き、
バトルは膠着状態に陥っっていた。
そうこうしているうちに末広のミドルストレートを250km/hで抜け、
最後のコーナーに向けて200km/hまで減速し、
いよいよ2台は尼崎ロングストレートに向けて加速体制に移った!


「鋭い!」


恐るべきパワーを感じさせるZは狂ったような加速で
その先進的なスタイルのボディをぐいぐいと前進させる。
マジで速い。


「負けるか!」


俺も負けじと早めの加速体制に移り、タコメーター
1万rpmあたりを指すのを横目に見ながらGを感じる。
ロングストレートに入り、俺は一般車の確認をする。
すでにスピードメーターは260km/h付近を指しており、
もう振動で直視することが出来ない。
あのZは俺の前方で超高速スラロームを繰り返しながら
巧みに一般車の合間を縫っている。
その後姿はまるで
「かかって来いよ・・・?抜けないのか?」
と誘っているかのようだ。
「やってやるぜ・・・」
俺は体内の恐怖が一気に沸騰した血に変わっていくのを
感じながらアクセルを開け、GSX-Rを280km/h付近にまで加速させた。
すでに恐怖の感覚は麻痺している。
自分でもどうなるかはわからない。
「なら…ん…だ……か?」
横並びだ。間違いない。
スラロームに手間取ったZに横から追いついた俺。
2台は横並びだ。
もうここからは意地だった。
もうとっくに速度なんて見ていられないところまできている。
ストレートも終わりに近くなってきた頃、
ふと、先のほうの視界の入ったトラック二台。
並んでいる。
空いているのは一番左の車線だ。


「ここですり抜けた方が勝ちだ!」
お互いの意地がお互いのブレーキを遅らせ、先に見える
トラックの横の一車線にむけて、2台は収束するように
突っ込んでいった…!!





                なぜかここで終わり。